本「誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち」
音楽産業のノンフィクション
著者のスティーヴン・ウィットが、5年近くの歳月をかけて調査し書き上げたノンフィクション。
ここ20数年間の音楽産業に起きた出来事を追ってまとめた1冊。
技術の進化やそれに伴う音楽業界の移り変わり、ネット上の犯罪。
この時代を生きて体感した世代には、読み応えのある本だと思います。
著者のスティーヴン・ウィットは、1979年生まれのジャーナリスト。
シカゴ大学を卒業し、コロンビア大学ジャーナリズムスクール修了しました。
本の最後にある謝辞によると、父もジャーナリストで、母は司書。姉はライターだそうです。
<あらすじ>
話の軸になるのは、データの圧縮技術を進化させた天才技術者、するどい感覚で音楽産業を築くエグゼクティブ、海賊版を次々ネットに送り出す犯罪グループ。
2000年より少し前。まだインターネットの通信速度は遅く、データ容量も小さかった頃から物語は始まる。
その後、技術は飛躍的に進化し、それに伴い変化していく音楽産業。
CDからダウンロードへ、移り変わる世の中の流れに上手くのれた者、道を間違えた者が音楽産業に与えた影響とは。
<感想>
ドイツ人の技術者ブランデンブルクは、データの圧縮技術向上にたくさんの時間を費やし、たくさんの音のサンプルを聴き分け、優れた音質を可能にした「mp3」を開発。
それでもすぐに日の目を見ることはなかった。
知名度が高く資金力も豊富な「mp2」との技術的な違いを企業に認めさせるのは至難の業。
「高い技術力」は「政治力」に負けてしまうのか。
この技術とビジネスの争いが、読んでいて最初に引き込まれたところでした。
私はmp3は知っていたけれど、mp2は知りませんでした。
そんなmp2が主流だった時代があったなんて!
名前がそっくりなこの2つですが、mp3はmp2の後継機種ではないというところがまた驚き。
そして音楽界のエグゼクティブ、モリスの登場。
ユニバーサル・ミュージックのCEOにもなったモリスは、自身もソングライターを目指していたことがあります。
ただ他の音楽通と大きく違うのは、音楽がただ好きなだけでは得られない、優れたビジネスの嗅覚を持っていたこと。
流行る音楽を見つけられる場所を探り、調査する力。自分に分からないことは人に任せる判断力。
華やかな業界の表舞台には立たず、あくまでアーティストを立てる側にいる人物。
モリスの近くにいる人だけが、モリスの本当の才能や魅力を知っている。
ヒットを確信したグループへ、無名でも惜しみない契約金を出す。
読めば読むほどモリスへの興味が湧いてくる、面白い章でした。
そしてこの本のタイトルに最も直接的な意味で繋がる、海賊版をネットに流していた「シーン」と呼ばれる音楽リークグループ。
そのグループでメインどころとして活躍(してはいけないけれど)するのは、工場労働者のグローバー。
ネットに潜む複雑な犯罪に手を染めた人物とは思えないほど、意外にも人間味のある魅力的な人物に描かれていたように思います。
真面目な労働者の一面。家族と過ごす一面。犯罪の部分を外せばけっこういい人。外せないけれど。
なんで悪いと分かって手を出してしまうのでしょうね。
良くない友人や都合の良い環境など、いろいろ違う向きの矢印が偶然重なり、心の琴線に触れる瞬間があるのでしょうか。
年月を経て得たものはお金以外にもたくさんあったのに、それらがブレーキにならなかったことがただ残念。
音楽業界だけではなく、映画業界にも影響を与えたお話しでした。
今40代、50代の人にとってはなるほど!という、面白い1冊だと思います。
著者の、ものすごい量の調査がなければ完成しない、音楽産業の歴史書のような貴重な本。
ここまで調べてまとめてくれてどうもありがとう!という感じです。
私は読むのにそこそこ時間がかかりましたが、分かる人が読めばもっとスイスイ楽しく読めるはず。
読むと得した気分になれるノンフィクションです。
<こんな人におすすめ>
- 音楽や音楽業界に興味がある人
- CDを買ったことがある人
- テクノロジーに興味がある人
- 著作権に関する犯罪や捜査に興味がある人
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