カズオ・イシグロの長編小説「忘れられた巨人」
「忘れられた巨人」を読んで
ブッカー賞作家、カズオ・イシグロさんの長編小説「忘れられた巨人」。
アーサー王亡きあとのブリテン島(イギリスのグレートブリテン島)が舞台の、古代ファンタジー。
古代ファンタジーと一言でいったらもったいないくらい、気高い物語だと思います。
あらすじ
アーサー王亡きあとのブリテン島。
大きな争いが収まり、一見して平穏な世の中が戻りつつある中、ある村のブリトン人老夫婦が自分や村人の記憶があまりに早く消えていくことに気づき不安を覚える。
その原因を探るため、そして昔別れた遠い地で暮らす息子に会うため、老夫婦は旅に出た。
旅に出るうち老夫婦は様々な人と出会う。
不思議な傷を負った少年。サクソン人の勇敢な戦士。アーサー王の甥である老騎士。高徳の修道僧。
ときには旅を共にしながらも、それぞれ違う目的を胸に秘めていた。
記憶を失う原因とはなにか。
それぞれに与えられた使命とは。
感想
読み始めたときはロードオブザリングのような旅物語だと思いました。
イギリスが舞台の古い時代の話で、鬼や竜が出てきたりするファンタジー小説。
読み始めてすぐに引き込まれ、ただのファンタジーではないことが分かりました。
旅の仲間が増えたり減ったりしながら、自分の信じる目的のために進む物語。
ここまではまさにロードオブザリングのようですよね。
ファンタジーの域を出て広がりを魅せるところは、老夫婦の生涯を通したラブストーリーと、「記憶」とは何かを問うところ。
老夫婦のアクセル(夫)とベアトリス(妻)は、記憶がだいぶ曖昧でも、お互いを気遣うことだけは常に忘れません。
旅の途中ずっと一緒にいます。支えあいます。
その姿に感動するだけの物語ではないところがこの本の面白いところでした。
記憶を少しずつ取り戻す中で、今は仲睦まじい夫婦の自分たちの中に、かつて不穏な何かがあったことに気づき始めます。
記憶を失うということは、良い思い出がなくなる寂しさばかりではなく、忘れたいことや悲しい出来事も忘れられるということだと知ります。
それでも真実と向き合う勇敢な老夫婦と強い愛に、最後まで胸を打たれる物語でした。
また、愛だけではなく戦いの記憶も同じです。
大殺戮があったことを忘れたとしても、争いの根そのものがなくなるわけではありません。
不穏な空気は残り、争いは水面下で進んでしまいます。
それでも忘れたい者もいて、忘れたくない者もいる。
人々の、生きていくための落としどころの違いがよく表れていました。
向き合うことは、気高い。
なぜか。
この本を読めば分かると思います。
面白かったです。
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