第47回江戸川乱歩賞「13階段」あらすじ・感想
「13階段」著者:高野和明
第47回江戸川乱歩賞を受賞した「13階段」。
死刑制度、法のゆがみ、犯罪者やその家族に対する社会的な制裁、被害者の報復感情など、罪と罰を問う社会派ミステリー。
著者の高野和明さんは1964年生まれ。
映画監督の岡本喜八さんに師事し、撮影スタッフ、脚本家を経て小説家へ。
2011年には「ジュノサイド」で第2回山田風太郎賞を受賞。
<あらすじ>
無実の死刑囚、樹原亮を救い出すため、困難を抱えた二人の男が奮闘する物語。
一人は27歳の元受刑者、保護観察中の身である三上純一。
純一は25歳のときに、居酒屋で因縁をつけてきた相手と喧嘩になり、もみ合う中で相手を転倒させ頭部打撲の傷を負わせる。その怪我が原因で相手を死亡させてしまい、傷害致死容疑で現行犯逮捕された。
居酒屋のマスターは裁判で「被害者の方が被告人(純一)を傷つけようとしていた、被告人はその場を離れようともがいているように見えた」と証言している。
裁判では正当防衛やアルコール摂取量など様々な争点があったが、結果実刑2年となり服役していた。
もう一人は40代の看守長、南郷正二。
南郷は高校を卒業後、刑務官として順調に出世していたが、2度の死刑執行に関わったことで毎晩うなされるようになっていた。結婚はしたが妻にもその苦しみを打ち明けられず、子どもと接することにも躊躇してしまう。そして溝は深まり別居へと進んだ。
二人の男は、冤罪の死刑囚を救うことで得られる弁護士からの高額な報酬を、それぞれ迷惑をかけた家族への償いに使うつもりでいた。
与えられた期間は3ヶ月。
事件の背景、そして真犯人にたどり着き、死刑執行前に冤罪をはらせるのか。
また、冤罪をはらそうと奔走する二人のたどり着くところとは。
反対の立場に立つ二人が「無実の死刑囚を救う」という共通の目的を持ち、社会のゆがみと立ち向かう本格的なミステリー。
<感想>
日本では国民の過半数が死刑制度を支持しているそうです。
冤罪をはらすために奔走する南郷も、自分が死刑執行の場に立ち合い、直接関わるまでは支持していました。
死刑囚がどんな罪で死刑になり、ついにそのとき(執行)が来るとどうなるのか、執行される直前の様子や執行された直後の遺体の様子まで書かれています。
もちろん本はフィクションですが、本の最後に出てくる参考文献の数や種類を見ると、かなり現実に近いものがあるのではないかと想像できます。
法律はその頑固な性質上、間違いを正すことすら困難になることもあるそう。
それでは正しいことを公平に裁くはずが、本末転倒です。
この「13階段」を読み、死刑制度について、法のゆがみについて多くのことが学べました。
そして罪の先に待っているのは、現代では何より恐ろしい「社会的制裁」。
犯罪者はもちろん、犯罪者の家族に対しても社会は牙をむきます。
その罪の背景など関係なく、罪は罪として、たくさんの無関係な人たちが刑の執行人になる怖さ。
しかもその刑(罰)はそれぞれが勝手に考えた方法で、いつなんどきでも執行される。
自分が被害者ではなくても、正義という強力な盾を持ち心を砕きに来る。
親は引っ越しを迫られ、高額な賠償金を払い、兄弟は学校を辞めるまで追い込まれる。
その後も待っているのは世間に怯えながら点々と暮らす日々。
そして被害者家族でさえも(被害者なのに)苦しまされてしまいます。
騒がれ探られ、傷が生々しいままのところへ塩を塗られる。
ひとつ事件が起こることで、その何倍もの負の連鎖が続いてしまいます。
皆が事件を起こす前に立ち止まれる人間にならなくてはいけないけれど、それも現実には難しいですよね。
沸点が早い人、我慢できない人もいます。
ただ、犯罪者としてすべての人をひとくくりにできないとも思います。
他人に卑劣なことをして笑っていられる、さらには見せつけるような犯罪者もいれば、自分ではなく大切な人のために戦う犯罪者もいるからです。
もちろんどんな理由であれ、罪を犯してはいけない。
だけど、それならば法律が、その罪を犯す理由になった出来事(罪)にも罰を与える約束をしてほしい。
そんなことを熱く考えさせられる最高の本でした。
脚本を書いていた作家さんだからか、難しい内容の箇所でもとても読みやすく、言葉が素直に胸に刺さってきます。
物語の進み方もスピード感も良く、止まることなく面白いまま最後まで一気に読めました。
本のタイトル「13階段」の意味も、読めば分かります。なるほどです。
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価格:770円 |