村上春樹の長編「騎士団長殺し」

「騎士団長殺し」あらすじ・感想

村上春樹さんの久しぶりの長編「騎士団長殺し」。

第1部「顕れる(あらわれる)イデア編」、第2部「遷ろう(うつろう)メタファー編」の2部構成。

2部合わせて文庫だと4冊分あります。なかなかの長編。

久しぶりに心を決めて読み始めた本でした。

 

簡単なあらすじ

主人公は肖像画家の36歳男性。

妻から突然離婚の申し出があり、話し合いの後そのまま車で旅へ出ます。

肖像画家を辞め、北海道へ向かい、それから東北地方を回っている途中、ある女と男との出会いによって何かが動き出します。

特にその男(白いスバル・フォレスターの男)は、ずっと主人公の中で深い意味を持ち続ける存在に。

そして旅は終わりを迎えます。

主人公は友人(雨田政彦)の勧めで、その友人の父である有名な日本画家の家で仮住まいを始めることになりました。

その家は小田原の人里離れた山の中にある空き家で、アトリエがあります。

駅前で時々絵画教室の講師をしつつ、アトリエで絵を描く生活が始まりました。

 

そんなある日、夜中に不思議な鈴の音が。

音源を探ると雑木林の中にある、小さな祠の裏から聴こえてくることが判明します。

後日、一緒に鈴の音を聴いた免色(めんしき)さん(向かいの山にある豪邸の住人)と、その祠の裏にある深い穴の蓋を開けると…

 

感想

祠の裏の穴は、まるでパンドラの箱のよう。

開けると次々不思議な出来事が起こるようになりました。

そこから話は面白くなっていきます。

穴を開放したことで、どちらかというと良くない出来事というか、必要な試練が訪れるようになります。

 

主人公の絵描き生活と恋愛模様、免色さんの人生と13歳の美しい少女とその美しい叔母の物語、「騎士団長殺し」というタイトルの絵画にまつわる不思議な出来事。

だいたいこの3つの話しで物語は進んでいきますが、段々とそれぞれの関わり合いが深くなっていきます。

免色さんが出てくるところでは「グレート・ギャツビー」を思い出しました。

豪邸に一人で住む、上品で一見完璧だけど不思議な男。

 

個人的に魅力的だと思った登場人物は、免色さん、友人(雨田政彦)、騎士団長でした。

村上さんの本は毎回食事が美味しそうですが、今回も主人公や免色さんが作る料理が美味しそうでした。

なので、物語としてはおまけのようなシーンですが、料理やコーヒー、お酒のシーンが好きです。

 

「騎士団長殺し」は、今までの村上さんの長編に出てくる要素が出てきます。

村上さんらしい本というか。

だけど新しい、過去とは別の扉が待っていました。

物語は始まり、そして終わりますが、その先にはそれぞれの続きがあり、読者が思い描く余白があります。

そういうところも私は好きです。

試練の扉は開けられるのを待っているし、必要なことを経験した後は、適切なタイミングで閉じられることを望んでいる。そういうことを具体的な言葉で短く教えるのではなく、長い物語を読むことで抽象的に伝えてくれる感じが好きです。

今は読み終わった直後なので余韻に浸っていますが、今後自分が避けられない孤独や試練と向き合うときに、もう一度読み返したくなるような気がします。

またはこの本の世界観が懐かしくなったときに。

面白かったです。

 

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