ちょっと大人な絵本「ボヴァリー夫人」
ちょっと大人な絵本「ボヴァリー夫人」
原作:フローベール 文:姫野カオルコ 絵:木村タカヒロ
<解説>
フローベールの名作「ボヴァリー夫人」を、現代作家と画家がコラボして作った「ちょっと大人な絵本」です。
内容が大人であることはもちろん、文も絵も大人です。
フローベールのボヴァリー夫人は長くて読む気がしない、という方でも、適度な長さで簡潔に書かれているので読みやすいです。
世界の名作に触れてみたい方にぴったりの魅力的な絵本だと思います。
姫野カオルコさんによって新たに蘇ったボヴァリー夫人は、現代的でシャレた文章になっています。
冷静で客観的に描かれているのに、文の中に深い情熱を感じます。
そして各ページごとに現れる木村タカヒロさんの絵は、一言でいうと「超絶オシャレ」。二言目は「カッコイイ」。
カラフルな色彩にコラージュの絵、すべてのページが立派な作品になっています。
物語も絵も最後まで楽しめる1冊です。
<あらすじ>
19世紀。舞台はフランス、地方の町。
主人公「エマ」は裕福な自作農家に生まれた魅力的な美人。
エマは女学校のチャペルでお祈りするのが好きな、いつか現れるはずのヒーローを夢見る少女でした。
エマは女学校を卒業後、亡くなった母の代わりに家事をしていましたが、平凡な農園での生活に飽きていました。
そんなエマのもとに現れたのが「シャルル」。
シャルルは温和で几帳面、真面目な性格の免許医(二級医師)でした。
エマの父の骨折を診てくれたときに出会い、お互い惹かれ合って結婚します。
シャルルはやさしい夫でした。妻を大事にし、姑から守り、安定した生活を与えました。
ところがエマはその夫に不満を抱き始めます。鈍感で退屈な人だと。
ある日舞踏会に行き、華やかな世界を体験してしまったのをきっかけに、その思いはどんどん加速してついに病んでしまいます。
エマの気が晴れるようにと引っ越した先で、エマは女の子を出産します。
引っ越しても、出産をしても、結局は何も変わりませんでした。
そこで今度は不倫に走ります。
それでもやはり心が晴れることはなく、今度は買い物依存症になります。
そしてついに破産勧告がきてしまいました。
借金に追い詰められ絶望のふちに立たされても、エマは夫に助けを求めることができません。
「敏感な私」が、「鈍感な夫」に許されることは、どうしても耐え難かったのです。
エマが選んだ答えとは…
何も気づかないまま妻のことがただ大好きなシャルルは…
<感想>
物語のあらすじだけを見ると、エマのことをなんて嫌な女だ!と思うのではないでしょうか。
エマは聖書の哀愁や、賛美歌、宗教画が好きな少女でした。
テレビもインターネットもない時代、小説の架空の美しさしか知ることはありませんでした。
それでも一生懸命、楽しいことを見つけようと努力します。
家事をきちんとこなし、花を生けたり食べ物や洋服にもぬかりなく気遣いをしました。
そういうことをしても、いくら詩や歌を夫の前で披露しても、シャルルの感想は「へえー」…
シャルルなりにエマの美しさや感性を愛していましたが、いつまでたっても理解し得ない、すれ違ったままの暮らしは、エマにとっては苦しかったのでしょう。
やさしい、穏やか、愛妻家、安定した収入。シャルルより良い夫を探す方が難しいと思ってしまいます。
しかしそれは現実の暮らしを受け入れ、その中にどっぷりつかっているからこそ感じることなのかもしれません。
木村タカヒロさんの絵によって、エマの視線や表情、動きがより魅力的に描かれているので、読み終わった後はすっかりエマのファンになっていました。
同じ境遇は避けたいですが。
毎日色んなことに耐えながら、自分の暮らしに張り合いを持ち、頑張っている人がこの絵本を読んだら、
「ほらみたことか!!」というかもしれません。
いうかいわないかは、あなた次第です。
<こんな人におすすめ>
・フランス文学が好きな人
・世界の名作を簡単に面白く読みたい人
・オシャレな絵が好きな人