「リンゴの木」あらすじ、感想

ゴールズワージーの「リンゴの木」

ノーベル文学賞作家、ゴールズワージーの名作「リンゴの木」。

舞台はイギリス。時は1916年。

階級意識に翻弄された悲しい恋の物語。

 

あらすじ(ネタバレ含む)

大学を卒業し、友人と徒歩で旅をするアシャーストは、立ち寄った田舎の農家で美しい17歳の少女ミーガンと出会う。

ミーガンの家にしばらく居候することになったアシャーストは、大きなリンゴの木のある美しい大自然の中で、ミーガンに恋をする。

そして惹かれあったアシャーストとミーガンは結婚の約束をした。

アシャーストは駆け落ちの軍資金を得るため街へ出るが、そこで友人とその妹たちと出会い、居心地の良さからずるずると居座ってしまう。

なかなか帰ってこないアシャーストを求めてミーガンは街へやってくるが、そのみすぼらしい姿を見たアシャーストは、自分とミーガンとの身分の差を黙認し、声をかけなかった。

アシャーストは罪悪感に苛まれながらも、そのままミーガンと再会することなく農場に荷物を置いたまま、ついにミーガンの元へ戻ることはなかった。

それから26年後。

銀婚式を迎える妻と車で旅をするアシャーストは、かつて自分が恋をしたリンゴの木のある農場に立ち寄る。

そこで農民から、かつて一人の少女が悲恋により残酷な結末を迎えたことを聞き…

 


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感想

本の裏表紙に書いてあったあらすじを読み、なんとなく結末は分かりつつ読みましたが、やはり辛く悲しい話でした。

それでも前半のアシャーストとミーガンの出会いや、恋をしている二人の目に映る美しい景色は、読まないと知ることができない素敵なものでした。

まるで詩を読んでいるかのようです。

春の小川や花咲く野原。月夜に鳴く鳥の声。リンゴの木。

あっさり言葉にするとそんな風に呼ばれるものたちが、とても美しい言葉でまったく別のものに見えてきます。

どれも自分がこれまで見たことのあるような景色のはずなのに、そこはもう別世界。

この魅力を生み出す目を、本を通して一瞬でも持つことができるなら!私は読む価値があると思います。

自然の美しさがミーガンの心の純真さ、美しさと重なり、より一層この恋を特別輝いたものにしていました。

そしてその輝きこそが、その後の絶望を深めます。

街へ出て、夢の世界からすっかり現実の世界に感覚が戻ったアシャーストは、罪悪感でいっぱいになりながらも、社会的階級意識を捨てることができずにミーガンをなかったことにしてしまいます。

イギリスという国柄や当時の時代背景もあるかと思いますが、この感覚は日本でも、現代でも無くはないと思います。

ただ、現代の方がそういう壁は乗り越えやすい。

アシャーストを探しに街へ出て来たミーガンの心細さや絶望がどれほどか。結末が物語っています。

街を歩き、街の人と自分の違いを見て、もうアシャーストは自分の元へ戻らないことを悟ったのだと思います。

ミーガンにとって街はアシャーストそのものに見えたのではないでしょうか。

街をよく知らないように、アシャーストのことも実はよく知らなかったことに気づいたのかもしれません。

身分の格差という、これまでの人生で知ることのなかった越えられない壁があることを知ってしまったミーガン。

もうひたすら可哀そうです。

もしミーガンが田舎の純粋な生娘ではなく、大人の世慣れた女性であったなら…

「あいつ、逃げやがったな!」とヤケ酒飲んで忘れられたかもしれない。

でもそういう女性じゃないから、アシャーストも恋をしたのでしょうね。

 

最後まで読み終わり結末を知ったところで、ふと冒頭のシーンを思い出しました。

むむむ。

冒頭と最後のシーンが繋がります。

自分勝手な振る舞いで傷つけた少女の末路を知ったところで、知る前と根本的な考え方が変わらないところに怖さを感じました。

なんなら自分の方を可哀そうだと思って傷ついている感すらある…

憎むべきはアシャーストなのか、ブルジョワジーなのか。

 

内容は違うけれど悲恋繋がりで、ドストエフスキーの「白夜」と、伊藤左千夫の「野菊の墓」を思い出しました。

「野菊の墓」はただ涙なしには読めない可哀そうな話でしたが、「リンゴの木」は悲しい思いだけではない、苦い後味が残りました。

面白かったです。

 

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