小説「丸の内魔法少女ミラクリーナ」著者:村田沙耶香 あらすじ・感想
芥川賞受賞作家、村田沙耶香の「丸の内魔法少女ミラクリーナ」
「コンビニ人間」で芥川賞を受賞した村田沙耶香の短編集「丸の内魔法少女ミラクリーナ」。
正義、暴力、ジェンダー、性欲についての4つの物語です。
笑いあり、怖さあり。それぞれ違う4つの世界観。
一気読みしたくなる1冊です。
著者の村田沙耶香さんは、1979年千葉県生まれ。
群像新人文学賞優秀作受賞、野間文芸新人賞、三島由紀夫賞、芥川賞受賞。
<あらすじ>
「丸の内魔法少女ミラクリーナ」
OLの茅ケ崎リナは、小学3年のときから33歳の今に至るまで、密かに正義のヒーロー「ミラクリーナ」という設定で、日々の問題をパワフルに乗り切ってきた。
セリーヌのバッグの中に、魔法のコンパクトと相棒のポムポム(ぶたのぬいぐるみ)を忍ばせて。
そんなある日、子供のころ魔法少女仲間だったレイコがDV彼氏と喧嘩して家を飛び出してきた。
レイコと復縁を迫るDV彼氏にリナは言う。「レイコと復縁したいならレイコの代わりにあんたがマジカルレイミーになれ」と。
最初は戸惑いながらもマジカルレイミーの魔法少女活動(人助け)にのめり込みむDV彼氏だが…
「秘密の花園」
初恋の人が忘れられずに大学生になった千佳は、その初恋の人、早川くんを合意のもと1週間監禁することにした。
3食昼寝付きでぐうたらできることに提案を受け入れたモテ男の早川君。
千佳の監禁の目的は、すぐ近くで生身の早川君と暮らし、くだらなさを知り、頭の中に作り上げた王子様の早川君を追い出すことだった。
幻想を打ち砕きたい千佳の思惑と、その結末は。
「無性教室」
性別を出してはいけない高校へ通うユートは、同じクラスのセナに惹かれる。セナの性別は不明。セナもユートの本当の性別は知らない。
友達のユキも、コウも、ミズキも性別は不明。
高校の制服も下着も、性別が分からなくなるよう作られている。髪はショート、化粧禁止、自分のことは「僕」と呼ばなければいけない。
性別を隠しつつ探り合いながら生きること、将来性別がなくなるかもしれないこと、自分だけそのシステムに取り残されているかもしれないこと。様々な不安がユートを襲う。
性別で人は恋をするのか、性別がなくても恋ができるのか。
「変容」
親の介護が落ち着き、ファミレスで働き始めた40歳の主婦、真琴は、バイト仲間の大学生と話すうちに違和感を覚え始める。
どんなに理不尽なことで客からクレームがきても「怒り」が湧かない若者たち。
夫もいつも穏やかで怒らない。どうやら世の中から「怒り」の感情がなくなってきているようだ。
さらに知らない言葉「なもむ」の登場。皆が当たり前に使う「なもむ」という感情も理解できない真琴は、若いころバイト先で出会った五十川さんに連絡を取った。
五十川さんは当時「若者の性欲のなさ」について怒りを持っていたからだ。
「怒る」という共通の感情を持ち合わせた二人は「精神のステージをあげる交流会」へ乗り込むが…
<感想>
「丸の内魔法少女ミラクリーナ」は面白い。笑えるという意味で面白かったです。読みながら声を出して笑っていました。
33歳の女と40歳の男がコンパクトで変身してパトロールするのですよ。東京駅構内などを。
「キューティーチェンジ!ミラクルフラッシュ!」とか言いながら。助けられた人もやばさを感じること間違いなし。
結末も納得でした。
「秘密の花園」はなかなか衝撃。設定もですが、結末がもっとすごい。
主人公の身勝手さ、白石くんのふてぶてしさがなかなかです。どっちもどっち。
心の葛藤、ジレンマ、理想と現実。色々なはざまで揺れ動く主人公の行動がなかなか面白いです。
「無性教室」は切ない話しでした。一生懸命、自分の秘密にもがく高校生たち。
性別を隠すという設定は、近い将来ありそうな気もします。実際あったら強い反感をかうかもしれないけれど。
若さゆえの繊細な心の葛藤に加え、性別問題まであり、主人公の不安が手に取るように伝わってきました。
性別を奪われても恋をする。なんか素敵ですね。
「変容」は周りの流れに乗ること、乗れないことの怖さ、それに大きく左右されることの虚しさを感じました。
自分にとってのおかしな集まりが、他の大多数の人にとってはかっこいい集まりだったり。
流れに染まりたいのか、反発したいのか。自分でも自分のことが分からない、けれどこのままではいられない。そういう主人公の心の変化が面白かったです。
<こんな人におすすめ>
- 本を読んでスカッとしたい人
- 文学的な本が好きな人
- 人の悩みに興味がある人
- 現実も空想も好きな人
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