「ポトスライムの舟」あらすじ、感想

津村記久子さんの芥川賞受賞作

働くこと、働いて得たお金の価値、使い道。

津村記久子さんの「ポトスライムの舟」に描かれているのは、セレブでも容姿端麗でもなく(多分)、一流企業で働くキャリアウーマンでもない、身近なところで働いてお金の心配をする現実的な女性の話です。

あらすじ

古い家で母と二人暮らしをしている長瀬由紀子、29歳。

ナガセは工場の契約社員として働きながら、友人の経営するカフェとパソコン教室講師のアルバイトを掛け持ちしている。

黙々と忙しく働く日々。

ある日、工場の休憩室でふと目にしたクルージングのポスターにナガセは目を奪われた。

工場の年収とほぼ同額の、世界一周クルージング。

時間をお金で売っているような暮らしに嫌気がしていたナガセは気づいた。

「一年分の勤務時間と世界一周を換金できるのではないか」

働きながら考え、考えながら働き、周りの人々と関わりながら変化していく思いとは。

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感想

時間を売って得たお金で食べ物や光熱費を払い、なんとか生を繋いでいる自分の頼りなさ。

生きている限りそれを続けていかなければいけないということ。

主人公のナガセが感じるそういう漠然とした不安は、私も若いころ感じたことがあるな…と読みながら思い出しました。

 

ナガセは考えます。

なんのために働いているんだろう。

終わりが見えない。

自分の生き方はなんて不器用なんだろう。

家の修理や光熱費。

こんなことに一生懸命働いて得たお金が消えるのは嫌だ。

前向きに生きられそうな意味のあることにお金を使いたい。

 

共感できそうな内容が盛り沢山です。

物語の最後にナガセがたどり着いた答えはまた変わることがあるかもしれません。

それでいいのだろうと思います。

考えが変わらないことの方が怖いから。

上向きに変わることを目指す下向きと、下向きのまま変わらない下向きじゃ、未来がまったく違うはず。

どちらか選ぶならいつか上を向ける下向きでありたいです。

それなら落ち込むのも悪くないと思いませんか。

 

ナガセの周りの人々も色々な問題を抱えていますが、人前では普通に見えるように振舞えるくらい大人です。

ナガセが気づいたのは工場の年収と世界一周が同額ということだけではなく、みんな苦労を抱えながら日々を繋げて今を頑張って生きている、ということ。

それから意外とああ、そうそう!と思ったのが、体調を崩して気づく健康の有難さ。

風邪くらいでも、いつもと同じことが出来なくなるだけで周りに負担をかけてしまい、体だけじゃなく心もしんどい。

お互い様ですが。

当たり前過ぎることの方が忘れやすいって不思議ですね。

 

生きる意味というと重い気がしますが、生きる楽しみと言い換えればなんだか気が楽になるような。

生き方に関する問題は、自分で問題の意味や答えを模索するしかないけれど。

しかも死ぬまで多分変化し続けるけれど。

それが生きている証かもしれない。

なんてふと、思いました。

 

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